梅一輪一輪ほどの暖かさ 服部嵐雪

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大寒、節分、立春。この時季は頭の中で、どこかに小さな春はないものかと探し回っているような気がする。風のない晴れた日には、体に感じる日差しは春の温もりがやわらかく感じられる。

当山の浄域においても、メジロやヒヨドリのさえずり、スイセン、梅、ボケ、ツバキなどは、香りも格別であるが、つぼみが日に日に膨らんでくる様子に寒さの中にも春の息吹を感じさせてもらえる。

先日、長浜の盆梅展は春の風物詩であるとの情報を得て、小雪の舞う中、一路車を湖北まで走らせた。

由緒ある明治の迎賓館『慶雲館』に足を踏み入れると、甘い梅の香りに迎えられ、一足早い春を感じられる。長浜盆梅展は昭和27年からはじまり、今年で66回目を迎える歴史あるイベント。会場には、開花時期に応じ300鉢の中から約90鉢を展示。真っ赤な絨毯がひかれた純和風の座敷にずらりと盆梅が並ぶ姿は圧巻である。

中には樹齢400年と伝わる物もある。当山の歴史と同じ年月を重ねてきた古木である。その間、様々な苦難を乗り越えながらも、根と幹に養われ美しい花を咲かせて人々を喜ばせている。

我々が今この世に存在することは、ご先祖様から脈々と受け継がれてきた根と幹と様々なご縁とお陰があってこそ。根幹に今一度感謝の気持ちを思い起こし、お彼岸には身近な故人だけでなく、有縁のご先祖様を偲び、掌を合わせお念仏の功徳を届けたい。

人はいくら感謝しても、感謝しつくせない数々の恩恵の中で生きている。だが、悲しいことに感謝どころか、不平不満だらけで毎日を過ごしがちである。

陽光を体全体で浴す春、彼岸はもうすぐそこ。この仏縁深い彼岸を迎えるにあたって、現代に生きる私たちが、ともすれば忘れがちな、み仏さま、ご先祖さまをはじめとして、すべての恩恵に感謝する心を養う時としたいものである。

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『長安寺だより No.38 春彼岸号』より転載